塾の先生、日々の教材作りに追われていませんか?実は、良かれと思ってコピーしたプリントが、塾の経営を揺るがす大きなトラブルに発展することがあるんです。実際に、著作権侵害で数百万円の賠償金を請求されたケースも少なくありません。
この記事では、10年の講師経験から見えてきた「著作権の落とし穴」と、安全に質の高い教材を作るための具体的なステップをお伝えします。読み終わる頃には、コンプライアンスを守りつつ、自信を持ってオリジナル教材を作れるようになっているはずです。
塾講師が知っておくべき著作権の基本!「教育目的=すべてOK」ではない理由

「授業で使うんだから、著作権なんて関係ないでしょ?」そう思っている先生、実は非常に危険です。学校教育と学習塾では、法律上の扱いが全く異なることをご存知でしょうか。
まずは、なぜ塾での教材作成が厳しく制限されているのか、その根本的な理由を整理しておきましょう。
日本の著作権法は、文化の発展と著作者の権利保護のバランスを保つために作られています。教育現場での例外規定は確かに存在しますが、それはあくまで「公教育」を想定したものです。
利益を目的とする学習塾がその例外に甘えようとすると、思わぬしっぺ返しを食らうことになります。私自身、新人の頃に「これくらい大丈夫」と先輩に言われて作ったプリントが、実は真っ黒な違反だったと知ってゾッとした経験があります。
正しい知識を持つことは、自分自身の身を守るだけでなく、塾という組織を守ることにも直結します。まずは、私たちが直面している「営利目的」という壁の正体について詳しく見ていきましょう。
学校と学習塾でルールが違う?「営利目的」の壁
学校の先生がプリントを配るのと、塾の講師が配るのでは、法律上の意味合いが180度変わります。その最大の理由は、塾が「営利組織」であるという点に集約されます。
塾経営で意識すべき3要素
- 授業料の発生
- 営利企業の扱い
- 権利者の経済利益
学習塾は授業料を受け取って教育サービスを提供しているため、そこで使用される教材も「ビジネスの一部」とみなされます。著作者の利益を損なう行為には、厳しい目が向けられます。
「非営利」と「営利」を分ける決定的な差
著作権法第35条では、学校などの教育機関における「複製」を一定の範囲で認めています。しかし、ここでの「教育機関」に一般的な学習塾は含まれません。
学校は公的な役割を担う非営利組織ですが、塾は株式会社などが運営する営利組織だからです。この区別を理解していないと、学校と同じ感覚で市販教材をコピーしてしまい、法的な責任を問われることになります。
塾の授業料が著作権料に直結する仕組み
塾が市販のテキストをコピーして配布すると、本来売れるはずだったテキストの売り上げが著作者や出版社に入らなくなります。これは著作者の「経済的利益」を直接侵害する行為です。
授業料をもらっている以上、教材費を浮かせるために他人の著作物を無断利用することは、他人のフンドシで相撲を取るようなもの。法的には不当な利益を得ていると判断される材料になります。
著作権侵害が発生した際のリスクと塾への影響
もし著作権侵害を指摘されたら、どうなるでしょうか。単に「ごめんなさい」で済む問題ではありません。
金銭的な損害はもちろん、塾としての信用失墜は計り知れないものがあります。
侵害発覚時の主なリスク
- 高額な損害賠償
- 刑事罰の可能性
- 社会的信用の失墜
一度でも「あの塾は他社の教材を盗用している」という噂が立てば、保護者からの信頼は一気に崩れます。法的リスクだけでなく、経営リスクとして捉える必要があります。
損害賠償請求が塾の経営を揺るがす恐怖
著作権侵害の賠償額は、配布した枚数や期間に基づいて計算されます。大規模な塾で長期間にわたって無断コピーが行われていた場合、その額は数千万単位に上ることもあります。
出版社は定期的に塾の教材をチェックしており、違反が見つかれば弁護士を通じて内容証明が届きます。突然の多額の支払いは、中小規模の塾にとっては即、倒産の危機に直結する恐ろしい事態です。
SNSで拡散される「著作権無視の塾」というレッテル
現代では、退職した講師や生徒、保護者がSNSで内部情報を発信することが珍しくありません。「この塾、市販の本をそのままコピーして配ってるよ」という写真付きの投稿が拡散されれば、ネット上での評判は修復不可能です。
コンプライアンス意識の低い塾に、大切な子供を預けたいと思う親はいません。デジタルの時代、隠し通すことは不可能だと心得ておくべきです。
著作権法第35条(教育機関での複製)が塾に適用されないケース
多くの先生が誤解しているのが、この「第35条」です。教育のための複製が認められる条件は、私たちが思っているよりもずっと限定的で、塾にとっては厳しい内容になっています。
第35条の適用外となる理由
- 塾は教育機関外
- 営利目的の除外
- 不当な利益の侵害
法律上、学習塾は「教育機関」ではなく「サービス業」に近い扱いを受けます。そのため、学校と同じ特権を享受することはできないのが大原則。
この現実をまずは受け入れましょう。
「学校」の定義に含まれない学習塾の現実
著作権法における「教育機関」とは、小学校、中学校、高校、大学、あるいは幼稚園や専修学校などを指します。これらは学校教育法に基づいて設置されているものです。
一方で、学習塾や各種予備校、カルチャースクールなどは、この定義に含まれません。たとえ教えている内容が学校の勉強と同じであっても、法的な枠組みが違うため、第35条の恩恵を受けることはできないのです。
法律改正で変わった「授業目的公衆送信」の範囲
近年の法改正で、オンライン授業での教材利用(授業目的公衆送信)に関する補償金制度が始まりました。これにより学校では一定のルール下でデジタル教材が使いやすくなりましたが、これも基本的には学校等の教育機関が対象です。
塾がオンライン授業でテキストを画面共有したり、PDFで送ったりする行為は、依然として著作権者の許諾が必要な「送信」にあたります。デジタル化が進む今こそ、より一層の注意が必要です。
教材作成のトラブルを防ぐ!5つのOK・NG具体例

理論だけでは分かりにくいですよね。ここからは、塾の現場でよくあるシチュエーションを例に、何がアウトで何がセーフなのかを具体的に解説します。
これを知っておくだけで、日々の教材作成の迷いがぐっと減るはずです。
私自身、昔は「これくらいならみんなやってるし……」と自分に言い訳をして、ネットの画像を拾ってプリントに貼っていました。でもある時、法務に詳しい先生からそのリスクをこんこんと説かれ、背筋が凍る思いをしました。
無知は最大の罪であり、リスクです。具体的案事例を通して、安全な教材作りのボーダーラインを学んでいきましょう。
特に、市販テキストや過去問の扱いは、多くの塾が「グレー」だと思い込みながら「黒」に近いことをしてしまっている領域です。正しい知識で、クリーンな塾運営を目指しましょう。
【NG】他社の市販テキストや過去問をそのままコピーして配布する
これは最もやってしまいがちで、かつ最も危険な行為です。たとえ一部であっても、許諾なくコピーして配布することは、著作権の「複製権」を侵害します。
無断コピーがNGな理由
- 著作者の収益減少
- 複製権の直接侵害
- 出版社の権利侵害
「生徒に買わせるほどではないけれど、この1ページだけ解かせたい」という気持ちは分かります。しかし、その1ページにも著作者の血と汗が滲んでいます。
正当な対価を払わずに利用することは許されません。
「1ページだけなら大丈夫」という思い込みの罠
「全部じゃないからいいだろう」という理屈は通用しません。著作権法では、著作物の「一部」であっても、その表現の本質的な特徴が維持されていれば、複製とみなされます。
特に塾で配るプリントは、その1ページが授業の核になるわけですから、重要性は高いはず。分量の問題ではなく、無断で複製しているという事実そのものが問題視されるのです。
1ページでも、1問でも、無断コピーはNGです。
過去問の解説部分は出版社独自の著作物
入試問題そのものは、公表された著作物として引用の範囲内で扱える場合がありますが、問題集に載っている「解説」は別物です。解説は、その出版社が雇用したライターや講師が独自に書き下ろした著作物。
これをコピーして配ることは、解説者の知的財産を盗むことと同じです。過去問を扱う際は、問題文と解説を切り離して考え、解説部分は必ず自分の言葉で作成する必要があります。
【NG】ネットで見つけた画像やイラストを無断でプリントに使用する
プリントを華やかにするために、ネットで拾った可愛いイラストやキャラクターを載せていませんか?これも立派な著作権侵害です。ネット上の画像は「フリー素材」ではありません。
画像利用のNGポイント
- 無断転載の禁止
- 商用利用の制限
- 意匠権の侵害リスク
特に有名なキャラクターは、著作権だけでなく商標権など複数の権利で守られています。塾の看板を背負って配るプリントに、それらを勝手に載せるリスクは甚大です。
Google画像検索の結果をそのまま使う危険性
検索結果に出てくる画像は、あくまで「ネット上に存在すること」を示しているだけで、自由に使っていいという意味ではありません。多くの画像には権利者がおり、無断使用を見つけるためのツールも普及しています。
最近では、AIがネット上の無断使用を自動で検知し、著作権管理団体から突然請求書が届くというケースも増えています。「ちょっとした飾りだから」という油断が、塾の経理をパニックに陥れるかもしれません。
キャラクター素材が招くディズニー並みの法的リスク
世界的に有名なキャラクター、例えばディズニーやサンリオのキャラクターを塾のチラシや教材に使うのは、自ら火の中に飛び込むようなものです。これらの企業はブランド価値を守るために、著作権侵害に対して非常に厳格な姿勢をとっています。
訴訟になれば、一講師や一教室の手に負えるレベルではありません。生徒の目を引くためにキャラクターを使いたい気持ちは分かりますが、代償が大きすぎます。
【OK】著作権が消滅している「パブリックドメイン」の作品を活用する
では、どうすれば安全に教材を作れるのでしょうか。一つ目の強力な味方は「パブリックドメイン」です。
著作権の保護期間が終了した作品は、誰でも自由に利用することができます。
活用できる素材の例
- 古典文学作品
- 古い歴史的写真
- 権利放棄された素材
特に国語や英語の長文読解教材を作る際、古典的な名作を使うのは非常に有効です。内容の質が保証されている上に、著作権料を気にせず全文掲載も可能です。
夏目漱石や太宰治など「青空文庫」の活用術
「青空文庫」には、著作権が切れた名作がデジタル化されて数多く公開されています。夏目漱石、太宰治、芥川龍之介といった文豪の作品は、入試でも頻出ですが、これらはパブリックドメインなので自由に教材化できます。
テキストをコピー&ペーストして、自分で注釈や設問を付け加えれば、立派なオリジナル教材の完成です。名作に触れる機会を生徒に提供できる、講師にとっても嬉しい選択肢ですね。
没後70年経過した作品の見分け方
現在の日本の法律では、原則として著作者の死後70年が経過すると著作権が消滅します(以前は50年でしたが、改正されました)。例えば、1954年以前に亡くなった作家の作品は、概ねパブリックドメインと考えて良いでしょう。
ただし、翻訳作品の場合は「翻訳者」の死後70年が基準になるため注意が必要です。海外の小説を使いたい場合は、原文(パブリックドメイン)を自分で翻訳するか、翻訳権が切れているかを確認しましょう。
【OK】法律で定められた「引用」のルールを正しく守って作成する
最新のニュース記事や現代の小説を扱いたい場合は、「引用」という手法を使います。正しく引用すれば、著作者の許諾なく作品の一部を利用することが可能です。
引用成立の必須条件
- 公表済みの著作物
- 公正な慣行に合致
- 目的上正当な範囲
引用は「魔法の言葉」ではありません。法律で厳格に定められたルールを守らなければ、それは単なる「無断転載」になってしまいます。
後の章で詳しく解説する「4つの条件」を必ずチェックしてください。
自分の言葉が主役になる構成の作り方
引用で最も大切なのは、あくまで「自分の解説や設問がメイン」であることです。例えば、新聞記事を10行引用するなら、それに対する自分の解説や設問はそれ以上のボリュームになるように構成しましょう。
記事を載せただけで終わるプリントは「引用」とは認められません。あなたの講師としての知見を加え、記事を「素材」として使いこなす姿勢が、法的な正当性を生みます。
引用部分をカギ括弧で明確に区別するテクニック
どこからどこまでが他人の文章で、どこからが自分の文章なのか。これが一目で分からない教材は、引用のルール違反です。
カギ括弧(「 」)で囲む、背景に色をつける、枠線で囲む、といった工夫をしましょう。また、フォントを変えるのも効果的です。
視覚的に明確に区別することで、生徒にとっても「ここが重要な資料部分なんだな」と理解しやすくなり、教材としての質も向上します。
【OK】著作権フリー素材サイトや自作のオリジナル問題を使用する
最も安全で、かつ講師としての腕の見せ所なのが、フリー素材の活用と自作問題です。これなら著作権トラブルに怯える必要は一切ありません。
おすすめの作成方法
- 商用OKなサイト
- 自作の図解・表
- 完全オリジナルの文
最近は、塾のような営利目的でも無料で使える高品質な素材サイトが増えています。これらを賢く組み合わせることで、プロ顔負けの教材を作ることができます。
いらすとや等「商用利用OK」のサイトの選び方
「いらすとや」や「イラストAC」などは有名ですが、必ず「利用規約」を読みましょう。例えば、いらすとやの場合、商用利用でも1つの制作物につき20点までなら無料、といった制限があります。
塾のプリント1枚に20点以上載せることは稀でしょうが、チラシなどを作る際は注意が必要です。また、「商用利用不可」の素材を「無料だから」と使ってしまうのは厳禁。
必ず「商用OK」の文字を確認する癖をつけましょう。
講師の強みを活かした完全オリジナル問題の価値
究極の教材は、問題文から設問まで全て自分で作ることです。ハードルが高いように感じますが、目の前の生徒の弱点に合わせて作る問題は、どんな市販教材よりも価値があります。
数学の数値を変える、英語の例文を生徒の趣味に合わせる、といった小さな工夫から始めてみてください。完全オリジナルの教材が積み重なれば、それは塾としての大きな資産になり、他塾との強力な差別化ポイントにもなります。
訴えられないために!「正しい引用」の4つの必須条件

「引用すれば大丈夫」という言葉を鵜呑みにして、トラブルになるケースは後を絶ちません。実は、法律上の「引用」が成立するには、4つの厳しい条件をすべて満たす必要があります。
どれか一つでも欠ければ、それは著作権侵害になってしまうのです。
私も以前、自信満々に作ったオリジナル長文プリントを法務チェックに出した際、「これは引用ではなく転載です」と突き返されたことがあります。理由は、引用した文章が長すぎて、自分の解説が負けていたから。
当時はショックでしたが、今思えば塾を守るための大切な指摘でした。ここでは、裁判でも重視される「正しい引用」の鉄則を整理しましょう。
この4条件をマスターすれば、新聞記事や他者の文章を教材に取り入れる際、自信を持って「これは合法だ」と言えるようになります。講師としてのプロ意識を、法的な正しさでも示していきましょう。
主従関係が明確であること(自分の解説がメインである)
引用の最も重要なルールは、あなたの文章(主)と、引用した文章(従)のバランスです。引用部分が主役になってはいけません。
主従関係を守るコツ
- 自分の文章量を多く
- 解説を充実させる
- 設問で深く掘り下げる
分量的な比率だけでなく、内容的な重要度でも「自分の言葉」が勝っている必要があります。引用した文章は、あくまで自分の意見を補強したり、設問の対象にしたりするための「材料」に留めましょう。
引用が「添え物」になっているかを確認する
プリントをパッと見たとき、どこが一番目立っていますか?引用した文章がページの8割を占め、最後に数問の選択肢があるだけなら、それは主従逆転の典型例です。理想的なのは、引用した文章に対して、講師であるあなたがなぜこの文章を選んだのか、どの部分に注目すべきかという「導き」がしっかり書かれている状態です。
引用はあくまで、あなたの授業を成立させるための「脇役」でなければなりません。
解説文のボリュームで主従を逆転させないコツ
もし引用したい文章がどうしても長くなってしまう場合は、解説文を前書き、中解説、まとめ、といった形で複数箇所に挿入しましょう。引用文の前後を自分の言葉でサンドイッチすることで、構造的に「自分の著作物の中に他人の文章を引用している」という形を作ることができます。
分量で勝てない場合は、分析の深さや独自の視点による解説を加えることで、質的な「主」を確保しましょう。
引用する範囲が「正当な範囲内」であること
必要以上に長く引用することは認められません。その授業の目的を達成するために「どうしても必要な分だけ」を抜き出すのがルールです。
正当な範囲の判断基準
- 必要最小限の抜き出し
- 全文引用を避ける
- 目的との適合性
「面白いから全部読ませたい」というのは講師の情熱ですが、著作権法上はNGです。全部読ませたいなら、その本や雑誌を生徒に買ってもらうのが本来の姿だからです。
全文引用を避けるための「要約」という手段
文章全体を紹介したい場合は、重要な部分だけを直接引用し、それ以外の部分は自分の言葉で「要約」してしまいましょう。要約は、元の表現をそのまま使わずに自分の言葉で内容を説明する行為なので、著作権侵害のリスクを大幅に下げることができます。
要約を挟みつつ、ここぞという核心部分だけを引用符で囲んで紹介する。このスタイルが、最も安全で知的な教材作成の手法です。
設問に必要な最小限の文章を抜き出す基準
例えば、ある段落の指示語の内容を問う設問を作りたいなら、その前後数行を引用すれば十分ですよね。そのために章全体をコピーする必要はありません。
「この設問を解くために、この範囲の文章は不可欠か?」と自問自答してみてください。不必要な部分を削ぎ落とす作業は、教材をスリムにし、生徒の集中力を高める効果もあります。
法を守ることは、結果的に教材の質を高めることにつながるのです。
引用元(出典)を明記し、改変せずに使用すること
他人の文章を使う以上、その敬意として「誰がどこに書いたものか」を明記するのは最低限のマナーです。また、勝手に内容を書き換えることも禁止されています。
出典表記に必要な項目
- 著者名(作者名)
- 作品名(記事タイトル)
- 出版社・発行年
出典が書いていないと、生徒はそれが講師の書いたものだと勘違いしてしまいます。これは著作者の「氏名表示権」を侵害する行為にもなり得ます。
著者名・タイトル・出版社・発行年をセットで記載
出典は、引用部分のすぐ下か、プリントの最後に分かりやすく記載しましょう。「出典:朝日新聞」だけでなく、「出典:朝日新聞 2023年10月5日付 朝刊 〇面『タイトル名』」のように詳細に書くのがプロの仕事です。
ここまで丁寧に記載されていれば、引用としての誠実さが伝わり、万が一の際も「正当な引用をしようとしていた」という証拠になります。生徒にとっても、出典情報は興味を広げる手がかりになります。
勝手に漢字をひらがなに変えるのも「改変」になる
「小学生には難しい漢字だから、ひらがなに変えよう」という配慮は、著作権法上は「同一性保持権」の侵害になる可能性があります。原文はそのままの形で引用するのが鉄則です。
どうしても変更が必要な場合は、「(筆者注:〇〇は〜の意味)」と注釈を入れるか、漢字の横にルビ(ふりがな)を振る形にしましょう。原文の表現を尊重することが、著作者に対する最大の敬意であり、法律を守るということです。
引用する必要性があり、自分の文章と区別されていること
最後に、「なぜそれを引用しなければならないのか」という必然性が問われます。単なる飾りや、スペース埋めのための引用は認められません。
必然性と区別のポイント
- 引用なしでは成立不可
- 視覚的な明確な区別
- 論理的なつながり
また、自分の文章と引用文が混ざってしまい、どこからが他人の意見か分からない状態もアウトです。誰が見ても一瞬で境界線がわかるように工夫しましょう。
「なぜその文章が必要か」を明確に説明できるか
「なんとなく雰囲気がいいから」という理由での引用は、必然性があるとはみなされにくいです。例えば、「現代のSNS社会におけるコミュニケーションの課題を考える上で、〇〇氏のこの分析は不可欠な視点である」といった、論理的な裏付けが必要です。
教材を作る際、「この引用がなくても授業は成立するか?」と考えてみてください。もし成立するなら、その引用は削るか、要約に変えるべきです。
枠線やインデントで視覚的に区別する工夫
最も確実な区別方法は、引用部分を丸ごと枠線で囲んでしまうことです。さらに、左右の余白(インデント)を広めに取り、自分の文章とは明らかにレイアウトが違うことを示しましょう。
フォントサイズを一回り小さくしたり、明朝体とゴシック体で使い分けたりするのも有効です。このように「視覚的な区別」を徹底することで、無意識の盗用を疑われるリスクを最小限に抑えることができます。
現場で迷った時の対処法!安全に教材を作るための実務ポイント
知識があっても、実際の現場では「これ、どうなんだろう?」と迷う場面が必ず出てきます。そんな時に立ち止まれるか、それとも勢いで進めてしまうかが、プロ講師の分かれ道です。
ここでは、迷った時の具体的なアクションプランを提案します。
私自身の経験上、迷った時は大抵「黒に近いグレー」であることが多いです。でも、そこで一手間かけることで、逆に誰にも文句を言われない最強の教材が生まれることもあります。
特に、出版社への許諾申請などはハードルが高く感じられますが、手順を知っていれば意外とスムーズに進むものです。組織として著作権に向き合う姿勢を作っていきましょう。
また、最近増えているオンライン指導ならではの注意点も無視できません。対面授業とは異なるルールが存在するため、アップデートが必要です。
現場で使える実務的なヒントをまとめました。
出版社や著作者に許諾を取る際の手順と注意点
どうしても市販教材の一部をそのまま使いたい、あるいは長文をまるごと掲載したい。そんな時は、思い切って許諾を取りましょう。
正攻法こそが最大の安心材料です。
許諾申請のステップ
- 権利者の特定
- 使用目的の伝達
- 条件の確認・合意
多くの出版社には、著作権利用に関する専用の窓口があります。丁寧な言葉で目的を伝えれば、一定の料金(あるいは無料)で許可をもらえるケースも多いですよ。
問い合わせ窓口の探し方とメールの書き方
出版社の公式サイトの最下部(フッター)や、「お問い合わせ」ページを見てみましょう。「著作権の利用について」という項目があればそこから、なければ一般的な問い合わせフォームから連絡します。
メールには「塾名」「使用したい箇所(書名・ページ数)」「配布枚数」「使用期間」を具体的に記載します。誠実な態度で、「教育現場で活用させていただきたい」という熱意を伝えれば、意外と柔軟に対応してくれる担当者もいます。
許諾料が発生する場合の予算確保と交渉術
著作権料が発生する場合、プリント1枚あたり数円〜数十円、あるいは一律数千円といったケースがあります。これを「高い」と切り捨てるのではなく、塾の安心料として予算化しましょう。
大規模な塾なら、年間契約で包括的な許諾を結ぶ交渉も可能です。「無断使用で訴えられた時の数百万」に比べれば、数千円の許諾料は安すぎる投資です。
経理や経営層に、このリスクと費用のバランスを論理的に説明し、クリーンな教材作りを組織の文化にしましょう。
塾内で共有すべき「著作権コンプライアンス」のチェックリスト
あなた一人が気をつけていても、他の講師やアルバイトの大学生がルールを破ってしまえば、塾全体の責任になります。ルールを「見える化」して共有することが不可欠です。
必須チェック項目
- コピー機の横に掲示
- 出典明記の徹底
- 定期的な教材監査
特に、経験の浅いアルバイト講師は「学校と同じ感覚」でコピーをしてしまいがち。採用時の研修や、定期的なミーティングで著作権の話を出すようにしましょう。
アルバイト講師への周知徹底が最大のリスクヘッジ
大学生講師にとって、著作権はあまり馴染みのない話題かもしれません。しかし、彼らが軽い気持ちで行った「参考書のコピー配布」が原因で、塾が損害を被った場合、彼ら自身の責任も問われかねません。
それを防ぐためにも、「当塾では市販教材のコピーは一切禁止」「画像を使うときはこのサイトから」といった具体的なマニュアルを渡しましょう。彼らを守ることが、結果的に塾を守ることにつながります。
定期的な教材見直しと「著作権担当者」の設置
過去に作った教材が、今の基準ではアウトということもあります。半年に一度、あるいは講習前などのタイミングで、教材の総点検を行いましょう。
また、教務主任などを「著作権担当者」に指名し、迷った時にすぐに相談できる体制を作るのが理想です。一人で抱え込まず、組織として「正解」を積み上げていくことで、講師全体の著作権リテラシーが向上し、結果として教材の質も磨かれていきます。
映像授業やオンライン指導で特に気をつけるべき著作権のポイント
オンライン化が進む中で、著作権の扱いはさらに複雑になっています。プリントを配る「複製」だけでなく、画面に映して送る「公衆送信」という概念が登場するからです。
オンラインの注意点
- 画面共有の落とし穴
- 録画データの扱い
- PDF配布の制限
対面授業では許されていた「引用」も、オンライン配信になると別の権利(公衆送信権)が絡んでくるため、より厳格な対応が求められる場合があります。
画面越しに映るテキストも「送信」にあたるリスク
Zoomなどの画面共有で、市販のテキストを映しながら解説していませんか?これは「公衆送信権」の侵害になる可能性が非常に高い行為です。対面授業で本を見せるのとは違い、デジタルデータをネットワーク越しに送っているとみなされるからです。
オンライン授業を行う場合は、画面に映す資料は完全に自作のものにするか、出版社から「オンライン授業での利用OK」という許諾を得ているものに限定しましょう。何気ない操作が、法的な境界線を越えてしまうのがデジタルの怖さです。
オンライン配信特有の「公衆送信権」の理解
公衆送信権とは、著作物を不特定多数(または特定多数)の人に送信する権利です。塾の生徒は「特定多数」にあたるため、オンラインでの教材共有はこの権利の対象になります。
特に注意したいのが、授業の「録画」です。リアルタイムの配信で許諾を得ていても、それをアーカイブとして残していつでも見られる状態にするには、別途許諾が必要なケースが多いです。
オンライン化を推進するなら、ICT担当者だけでなく、法的な観点からも配信フローをチェックしましょう。
まとめ:正しい著作権知識で質の高いオリジナル教材を目指そう
著作権について学ぶと、最初は「あれもダメ、これもダメ」と、教材作りが窮屈に感じるかもしれません。
しかし、それは大きな間違いです。著作権を正しく理解することは、他人の知恵を借りる際の「作法」を知ることであり、自分自身のクリエイティビティを解放することでもあるからです。
安易なコピーに頼らず、どうすれば法を守りつつ生徒に分かりやすく伝えられるかを考える。そのプロセスこそが、あなたを「ただの講師」から「教材クリエイター」へと成長させてくれます。
自分で悩み、工夫して作った教材は、コピーしただけのプリントとは比べ物にならない熱量を持ち、必ず生徒の心に響きます。
最後に、私たちがなぜ著作権を守るべきなのか。その本質的な理由を胸に刻んで、この記事を締めくくりたいと思います。
法を守ることは、教育者としてのプライドを守ることでもあるのです。
著作権を守ることは「クリエイター」としての講師の資質
私たち講師もまた、授業や教材を通じて新しい価値を生み出すクリエイターです。自分の作ったオリジナル問題や、魂を込めた授業動画が、どこかの塾で勝手にコピーされ、自分に一銭も入らず、名前も出されずに使われていたらどう感じるでしょうか。
きっと悲しいし、新しいものを作ろうという意欲も削がれてしまうはずです。他者の著作権を守ることは、巡り巡って自分たちクリエイターの世界を守ることにつながります。
その敬意を持つことこそが、プロ講師としての資質ではないでしょうか。
生徒に「ルールを守る大切さ」を背中で見せるために
私たちは生徒に、勉強だけでなく「社会のルール」も教えています。カンニングはいけない、嘘をついてはいけない。
そう教えている講師が、裏で他人の著作物を盗用していたら、言葉の重みはゼロになります。生徒は意外と大人の背中を見ているものです。
出典がしっかり明記された、法的にクリーンな教材を堂々と配る姿は、生徒に「知的財産を尊重する大切さ」を無言で伝えます。正しいルールの上で正々堂々と教える。
その姿勢こそが、生徒からの真の信頼を勝ち取る鍵になります。
迷ったら専門家や権利団体へ確認する習慣を
著作権の世界は奥が深く、法律も時代に合わせて変わっていきます。この記事で紹介した知識も基本に過ぎません。
現場で判断に迷い、どうしても不安な時は、一人で結論を出さないでください。塾の顧問弁護士や、著作権情報センター(CRIC)などの専門機関、あるいは各権利者団体へ問い合わせる習慣をつけましょう。
「確認する手間」を惜しまないことが、あなたと塾を一生守ってくれます。正しい知識を武器に、自信を持って、最高にクリエイティブな教材を作り続けてくださいね。

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