塾講師の残業代の実態として、月40時間分のタダ働きが当たり前になっている職場は少なくありません。授業が終わった後の準備・後片付け・保護者への電話対応・翌日のテスト採点。
気づいたら22時を回っていて、でも給与明細に残業代の欄はなかった——そういう状況、心当たりありませんか。
「これが塾業界の普通だから」という言葉で、ずっと飲み込んできた人は多いはずです。でも、普通だとしても違法は違法なんです。
この記事では、なぜ残業代がゼロになっているのか構造的な理由から整理して、今から動くために何が必要かを書きました。特に、サービス残業や過酷な労働環境に悩んでいる塾講師の方に向けて書いています。
塾講師の残業代の実態、月40時間のタダ働きが続く理由

結論から言います。塾講師に残業代が払われないのは、塾側がいくつかの「合法に見せる仕組み」を意図的に組み合わせているからです。
悪意があるかどうかはともかく、構造として残業代を発生させにくくする運用が根づいています。そこを知らないまま「業界全体がこうだから」と思い込み続けると、本来もらえたはずのお金が永遠に消えていきます。
授業が終わっても退勤できない「見えない拘束時間」がある
塾講師の仕事は、授業時間だけではありません。
授業開始30分前には教室に入って板書の準備をして、授業後はテストを採点して、成績が振るわない生徒の親に電話して、翌日の指導案を修正して…。それらをすべて合計すると、授業コマ数から計算した「給与対象時間」と実際の在職時間に大きなズレが生じます。
夜22時まで授業をこなした後、そのまま朝4時まで資料作成をした——そんな証言も珍しくないんですよ。授業のあった教室まで1時間かけて戻り、先輩数人で手分けして説明会資料を仕上げた、という話も実際に残っています。
こういう「見えない拘束時間」こそが、月40時間のタダ働きの正体です。授業の前後に積み重なった時間は誰も記録していないから、残業代の計算にも乗ってこない。
- 授業前の準備時間
- テスト採点・成績管理
- 保護者への電話対応
- 翌日の指導案作成
- 入塾説明会の準備
これらはすべて、労働基準法上は「労働時間」にカウントされます。授業のコマ数には含まれていなくても、です。
「自主的にやっている」という言葉で正当化され続けている
多くの塾で使われる常套句があります。
「先生が自主的にやってくれているから」。
でも、これは法律的に通用しません。
使用者(雇用主)が「やらなくていい」と明確に禁止していないのに発生している業務は、原則として労働時間に含まれます。
上司から「やれ」と言われていなくても、やらなければ翌日の授業が回らない状況であれば、実質的な指示があったとみなされるんです。
正直、ここは意見が分かれるところです。ただ、「自主的に」という言葉が使われる状況を振り返ってみてください。
採点が終わらなければ翌日返却できない。指導案を仕上げなければ授業が成立しない。
そういう「やらざるを得ない」状況に置かれていたなら、それは自主的な行動ではなく、業務上の義務です。
- 禁止されていない業務は原則労働時間
- やらざるを得ない状況は実質的な指示
- 「自主的に」は法的な免責理由にならない
「そういうものだ」という空気に押されて声を上げられなかった、というパターンが業界全体に広がっています。その空気こそが、残業代ゼロを支えている実態です。
コマ給制度が残業代ゼロを合法に見せる仕組みになっている
塾業界特有の問題に「コマ給制度」があります。これは授業1コマを単位として給与を設定する仕組みで、「授業している時間だけを仕事として報酬を払う」という考え方が根底にあります。
コマ給で雇われている場合、授業以外の時間が「労働時間」として認識されにくくなります。採点も電話対応も「授業に付随する作業だからコマ給に含まれている」という解釈を塾側がとっていることが多い。
でも、それは雇用側の都合のいい解釈なんです。
法定労働時間は1日8時間・週40時間です。コマ給の仕事であっても、実際の労働時間がこれを超えれば時間外割増賃金(通常の1.25倍)が発生します。
コマ給という報酬形態は、残業代が不要になる根拠にはなりません。
コマ給制度は確かに塾業界に広まっていますが、「残業代を払わなくていい契約形態」ではありません。それを混同させることで、講師側が請求権に気づかないようになっている側面があります。
月40時間のタダ働きが続く構造的な原因がある

個々の塾の問題というより、業界全体に染み付いた慣習と、制度の抜け穴が重なった結果です。ここを理解しておかないと、転職しても同じことが繰り返されます。
塾業界特有の「授業時間以外は労働ではない」という誤った慣習
「教育、学習支援業」の月間所定外労働時間は、毎月勤労統計調査(2020年度)によれば平均12.5時間です。ただしこれは統計上の数字で、実態として申告されていないサービス残業は含まれていません。
「授業コマ数で給与を決めている以上、授業以外は労働ではない」という発想が業界全体に根づいています。でも法律はそうなっていない。
労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことで、コマの有無は関係ありません。
ここが、塾業界の残業問題の根っこです。制度の話ではなく、「労働に対する認識」がそもそもズレている。
そのズレを当然のものとして受け入れてきた講師側も、ある意味でこの構造を支えてしまっていたかもしれません。
正直、変えるのは簡単ではないです。ただ、少なくとも「そういうものだ」と思い込むのは、今日でやめた方がいいと思います。
みなし残業を超えた分を誰も請求しないまま消えていく現実
塾の雇用契約に「みなし残業(固定残業代)」が設定されているケースがあります。「毎月○時間分の残業代を含む」という形です。
みなし残業自体は違法ではありませんが、みなし時間を超えて働いた分については、超過分の残業代を別途請求できます。ここが抜け落ちているケースが多い。
「残業代は給与に含まれている」という説明だけで終わり、超過分の清算が一切行われていない塾は少なくないんです。そしてその超過分は誰も気にしないまま月が変わって、また同じことが繰り返されます。
- みなし残業は「一定時間分の残業代を事前に支払う」制度
- みなし時間を超えた分は追加で請求できる
- 超過分を請求しない慣行が残業代ゼロを支えている
これを「仕組み」と呼ぶのは少し違いますが、構造的な見落としとして機能しているのは確かです。
教室長・主任への昇格が残業代ゼロへの入口になっている
塾業界でよく起きる問題が「名ばかり管理職」です。
教室長や主任に昇格すると、「管理監督者」として扱われ、残業代の支払い対象から外れる——そういう運用をしている塾があります。でも、労働基準法上の「管理監督者」は肩書きで決まるわけではありません。
本当の意味での管理監督者とは、経営上の重要事項に関与し、出退勤の自由があり、それに見合う待遇を受けている人のことです。授業コマをこなしながら教室のシフト管理もして、でも給与は一般講師とほぼ変わらない——そういう状態なら、管理監督者とは認められないケースが多いです。
昇格するほど残業代が消える、という逆転現象が起きているわけです。これを「名ばかり管理職」と呼びます。
名前だけの管理職には、残業代の免除を認める法的根拠がありません。
- 肩書きだけでは管理監督者にならない
- 経営への関与・出退勤の自由が必要
- 待遇が見合わなければ名ばかり管理職
「昇格したから残業代が出なくなった」ではなく、「昇格を理由に残業代を払わなくなった」という方が実態に近いケースも多いです。
実は今すぐ動ける残業代の証拠が手元に残っている

「証拠なんて残っていない」と思っていませんか。実は、日常的に使っているスマホやLINEの中に、証拠になり得るものがすでにあることが多いです。
自分でつけた日報・LINEのやり取りが証拠として使えるとわかる
残業代請求に必要なのは「いつ・何時から何時まで働いていたか」の記録です。
タイムカードや出退勤システムがあればそれが一番ですが、ない職場でも代替となる証拠が使えます。
- LINEやメールの送受信時刻
- 自分でつけたメモ・日報
- 授業報告書の提出タイムスタンプ
- 業務連絡のチャット履歴
- 塾のシフト表・スケジュール
たとえば、23時に「今日の授業報告です」というメッセージを上司に送っていれば、その時刻まで働いていた証拠になります。採点結果を撮影して共有した写真のメタデータ(撮影時刻)なども有効です。
「大袈裟なことをしなくてもいい」と思うんですが、今日から少しずつ残しておくだけで状況はかなり変わります。
「授業前の準備30分」「保護者電話対応」まで残業代の請求対象になる
授業時間だけが「仕事」ではないことは、すでに書きました。具体的にどんな時間が請求対象になるか整理しておきます。
- 授業前の準備・板書作成
- テスト採点・成績入力
- 保護者への電話・面談
- 入塾説明会の準備と参加
- 研修・勉強会への参加
- 教材の梱包・発送作業
「授業・テスト採点」は代表的な残業要因として知られています。これらがコマ給に「当然含まれている」という認識は雇用側の都合であり、講師側が同意していない限りは別途請求できる余地があります。
もちろん、全部が100%請求できるとは断言できません。状況や契約内容によって判断が変わる部分もあります。
ただ、「どうせ無理」と諦める前に、実態を専門家に確認してみる価値は十分あります。
過去2〜3年分まで遡って取り戻せる金額を試算しておく
残業代請求には時効があります。現在の労働基準法では、賃金の請求権は3年間行使できます(2020年の法改正前は2年でした)。
つまり、最大3年分を遡って請求できる可能性があります。
試しに計算してみるのが近道です。仮に時給換算で2,150円の塾講師が、1週間で14時間の時間外労働をしていた場合、1週間分の残業代は【2,150円×14時間×1.25=37,625円】になります。
これが1ヶ月(4週)続けば150,500円。3年分に換算すると500万円を超える水準に達します。
実際に訴訟まで発展したケースで、500万円前後の支払いを勝ち取った事例も存在します。「どうせ大した金額じゃない」と思っていた人ほど、試算してみると驚く数字になることが多いです。
まずは「自分は月何時間のサービス残業をしているか」を1週間だけ記録してみてください。
それだけで、自分がどのくらい損をしているか可視化されます。
残業代を回収するために今週からできる具体的な動きがある
「分かった、でも何から始めればいい?」という段階の人に向けて、具体的な順番を整理します。
勤務記録を毎日スマホメモで残す習慣を今すぐ始める
最初にやることは一つだけです。
記録を始めること。
難しいことは何もありません。スマホのメモアプリに「今日の出勤時刻・退勤時刻・業務内容」を毎日書くだけでいいです。
5分もかかりません。
- 出勤・退勤時刻をメモに残す
- LINEや業務連絡は消さずに保存
- 業務メールの送受信時刻を確認
- シフト表や業務指示書は写真に撮る
後から「そういえばあの日も遅かった」と思い出しても、記録がなければ証拠になりません。証拠は後から作ることができないので、今日から毎日積み上げることに意味があります。
記録をつけながら、過去のLINEや業務連絡のアーカイブも掘り起こしておくといいです。スクリーンショットを撮って日付ごとにフォルダに整理しておくだけで、後々かなり助かります。
会社への直接交渉・労基署・弁護士、それぞれ動いた場合の違い
証拠が揃ってきたら、どこに相談するか考えます。
| 直接交渉 | 労基署 | 弁護士 | |
|---|---|---|---|
| 費用 | 無料 | 無料 | 有料 |
| 時間 | 短い | 長い場合あり | 状況による |
| 強制力 | なし | 指導まで | 請求・訴訟可 |
| 在職中の対応 | リスクあり | 可能 | 可能 |
会社への直接交渉は、相手が誠実に応じてくれるケースでは一番早い方法です。ただ、塾側が「問題ない」と主張する場合や、証拠の評価で揉める場合には機能しません。
労基署(労働基準監督署)への申告は、費用がかからず敷居が低い選択肢です。ただし、労基署は個人の代わりに残業代を取り返してくれる機関ではなく、事業所への指導・勧告が主な役割です。
未払い残業代の回収を目的とするなら、弁護士に相談する方が直接的です。
弁護士への相談を候補として考えると、着手金の問題を心配する人が多いです。ただ、未払い残業代の案件では成功報酬型(回収できた場合のみ費用が発生する)で動いてくれる事務所もあります。
まずは無料相談から始めてみるのが現実的です。
在職中でも動けるか、退職後でも請求できるかを整理しておく
「辞めてからじゃないと動けない」と思っている人が多いですが、残業代の請求は在職中でも可能です。
在職中に動く場合、職場の人間関係や今後の雇用への影響を心配するのは理解できます。そのリスクをゼロにする方法はありませんが、弁護士を通じた交渉であれば、直接やり取りしなくてすむ形をとれることが多いです。
退職後であっても、時効の範囲内(最大3年)であれば請求できます。「辞めてしまったから無理」ではありません。
むしろ、退職後の方が会社からの報復を心配せず動きやすいという側面もあります。
- 在職中でも残業代請求は可能
- 弁護士経由なら直接交渉しなくてすむ
- 退職後も3年以内なら請求できる
- 辞めた後に動き始める人も少なくない
どのタイミングで動くかは状況次第で変わります。ただ、「まだ動けない」と先送りし続けると時効が近づいてくるので、少なくとも証拠の記録だけは今すぐ始めておいてください。
よくある質問
- 塾講師の残業代は本当に請求できますか?
-
請求できます。コマ給制度や「自主的にやっている」という説明は、残業代支払い義務を免除する理由になりません。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた分には、1.25倍の割増賃金が発生します。
- 塾講師の残業代はどのくらい遡って請求できますか?
-
現在は最大3年分まで遡れます。2020年の法改正で2年から3年に延長されました。今すぐ動かなくても、記録を残しておくことで請求できる期間が確保されます。
- 証拠がなくても残業代を請求できますか?
-
証拠がないと請求は難しくなりますが、LINEの送受信時刻・業務メール・日報・シフト表など、意外と身近なものが証拠になります。まず弁護士に相談して、手元にある情報で何ができるか確認することをお勧めします。
- 塾の「名ばかり管理職」に残業代は発生しますか?
-
肩書きだけの管理職であれば、残業代が発生します。法律上の「管理監督者」は、経営への関与・出退勤の自由・待遇の3要件をすべて満たす必要があります。教室長という肩書きだけでは管理監督者とは認められないケースが多いです。
- 在職中に残業代を請求しても大丈夫ですか?
-
法的には在職中でも請求できます。不利益取扱いは法律で禁止されています。ただし職場の状況によって対応が異なるため、弁護士を通じた交渉でリスクを抑えながら進める方法もあります。
まとめ:塾講師の残業代の実態を知ってから、動くかどうか考えてほしい
塾講師の残業代が月40時間分ゼロになっている理由は、誰か一人の悪意ではなく、コマ給という制度・「自主的に」という言葉・名ばかり管理職への昇格、これらが重なった構造的な問題です。
以前は「業界全体がこうだから仕方ない」という見方が当たり前でした。でも、実際に弁護士に相談して500万円前後を取り戻したケースがあるという話を知ってから、「慣習だから泣き寝入り」という考え方には根拠がないと感じるようになりました。
慣習は法律の免責事由にはならないんです。
ここで一度、自分の状況を確認してみてほしいです。週に何時間、授業以外の業務をしているか。
それに残業代は出ているか。みなし残業が設定されているなら、みなし時間を超えていないか。
全部が請求できるとは言えません。状況によって難しいケースもあります。
ただ、何もしなければゼロが確定するだけで、動けば取り戻せる可能性がある。その違いは大きいです。
まず今週からできることは一つだけです。毎日の出退勤時刻をスマホにメモしてください。
それだけで、何かが変わり始めます。


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